太陽の光が降り注ぐサンフランシスコ, LA。シティバイザベイの端の方に佇む家から出てきた彼女(本名:Angela F Simmons)は、菜食主義を貫くフードファイターだ。
『Vegetable Avenger(ベジタブル・アベンジャー)』という名前で活動する彼女に興味を持ったのは、メジャー・リーグ・イーティング(MLE)からの大会参加招集を、食の嗜好を理由に断り続けている選手がいると噂で聞いたからに他ならない。
MLEはご存知の通り、アメリカフードファイトリーグの大元締め。そこからの招集に応じないことはフードファイターとして生きていくことは難しいだろう。
そんな手前勝手な心配をする私たちをよそに、”菜食の復讐者”は笑顔でインタビューに答えてくれた。
「一枚のステーキを食べているあなたは、野菜を暴食している私よりも地球環境にダメージを与えている。」
早食い・大食いの大会に出場して、その賞金で暮らしている彼女は、もちろんベジタリアンの大会に限っての参戦。他には、スポンサーシップ契約などでもお金を得ているとのこと。
学生時代に見た『Cowspiracy』に影響を受けて、動物性の食品から距離を置いた彼女は、ベジタリアンとして生きていくだけでなく、なんとかしてそれを社会に広げていけないかなと考え、自分が大食いが得意だということに思い当たり、フードファイターの道を選択した。
「300gのサーロインステーキを生産するのに、一体どれだけの飼料と水がかかるのか、考えたことありますか?
大食いは、”飽食の時代”と呼ばれるほど裕福になってしまった現代社会の悪しき習慣の代表だと思っています。
私はあえて、その悪しき習慣を逆手にとって、『一枚のステーキを食べているあなたは野菜を暴食している私よりも地球環境にダメージを与えているんだ』ということを伝えていきたいんです。」

子供時代の彼女は、特別な子ではなかったと言う。どこにでもいるような、砂場が好きで、イタズラも好きな子供。
「比較的厳格なクリスチャンの家庭で育ったので、食事を与えられすぎるということはなかったです。
ただ、幼い頃から食事が終わった後でも、もっと食べることができるなという感覚はありました。空腹というよりかは、まだお腹に食べ物が入るな、というような感覚です。
アルバイトを始めて、自分で自由に食べ物を買えるようになったくらいですかね、自分がいくらでも食べれるということに気が付いたのは。」

ベジタリアン・フードファイターとしての苦労を尋ねてみると、参加できる大会が限られていること、という返答が返ってきた。
「辛いものが苦手なので、カロライナリーパーの早食いなどにも参加できませんし、そうなってくると玉ねぎやカボチャなどの大食いになってきます。
そういった大会は、基本的に野菜を生産している土地での開催で、大会ごとの距離が離れているので、いつも長距離の移動となり、それは大変ですね。
逆にフルーツの大食いとかなら負けないですよ。甘党なので、和菓子も好きですね!」
取材後記
フードファイターと聞くと、欲望のままに食物を胃に流し込むイメージがあるが、実は彼女のように信念を持って取り組んでいる選手は多い。
菜食を広げるためとはいえ、決して容易とは言いがたい業界に乗り込んだ彼女に敬意を評して、次回尋ねる時はお土産に虎屋の羊羹を持っていこうと思う。